■この10年「マンション管理士の業界事情(マンション管理士会)編」

【川原】
2年目以降には、それ以前からマンション管理士会の会員であったマンション管理士からも、プロナーズ認定研修の受講の申し込みがされるようになりました。

【親泊】
井手さんをはじめ、初期の認定者メンバーには、風当たりも考え、自らがプロナーズ認定者であることを管理士会の中で不必要に公言しないように助言したりもしたものでしたが、いつしか全くそんな必要もなくなりましたね。この点については、その後、管理士会やその運営者、会員であるマンション管理士が「団体の事業活動」と「個人の営業活動」とをきちんと分別できるようになった結果と思っています。

【川原】
なるほど。親泊理事による管理士会の話とあっては、もうちょっと詳しく聞きたいところですね。

【親泊】
組織強化を念頭に置く管理士会としては当時、「個々の力には限界があるが、同志の英知を結集すればなんとかなる」といった旗印を掲げていました。誤解がないように補足すれば、この点は今も変わりません。しかし、これは以前も今もあくまで会の目的である「マンション管理士制度の周知・普及」や「マンション管理士に対する業務支援」に限ったことで、成業のためには個々の事業者としての努力が常に別に求められる関係にあることなどは、当初からわかりきったことでしたが、会の一員として団体活動に努めれば努めるほど、個々の事業者がすべき努力、つまり管理組合に選ばれるための努力をも一緒にしているように錯覚し、個々が本来すべき努力を忘れさせてしまいかねない面を伴っていたと言えます。この結果、「団体の事業活動」と「個人の営業活動」を混同し、例えば、管理士会でもプロナーズと同じことができるはずだ、みたいなことを発想したり、期待したりしてしまうことにつながりかねませんでした。

【川原】
まあ、10年前のマインド対談でも同じようなことが話題になっていますが、そうした発想や期待がそもそも「あわよくば的」ということなのですよね。マンション管理士になるまで個人事業というものを経験したことがない会員が多かったことで、個人事業を成り立たせるために必要な心構えや努力の内容をきちんと説明できる運営者が少なかったという事情もありましたね。

【親泊】
そうですね。マンション管理士会としても、会員のニーズに対してどのように応えてよいのか、できることとできないことの分別ができなかった時代ということになるでしょうか。起業支援など管理士会じゃ手に負えないから、プロナーズへ行け!…と言えば済むなら、管理士会の役員としても、どれだけ楽だったことでしょう。これを実践しているのはプロナーズだけなのですから、会の要職にある者ほど、そうしたことをきちんと会員にレクチャーできなければいけなかったことになりますね。

【川原】
今になって考えてみると、最初の無料ガイダンスの時点から、マンション管理士会の会員の中にも、プロナーズ認定研修を受講したいと考えるマンション管理士がある程度はいたのかもしれません。しかし、そうした空気の中で自分だけがプロナーズの門を叩くということは、管理士会の会員として、会との関係で裏切り者になるようなイメージがあったりして、かなり勇気がいることであったのかとも思わされますね。今では、とても考えられないことですが。

【親泊】
ところで近年、管理士会の研修で話題にしていた、おもしろい話があります。プロナーズ事業のターニングポイントと同じ頃の話になりますが、前に所属していた管理士会の忘年会か暑気払いの席で、マンション管理士の業務展開のテーマで、ある役員とサシの熱い議論になってしまいました。その際、個人事業の成否の視点から、「マンション管理士として独立開業することは、ラーメン屋さんや花屋さんを開業することと特に変わるところはないですよ」と向けたところ、この某役員は「マンション管理士は国家資格者なのだから、絶対にそんなことはない!」とムキになって反論してくるのです。

【川原】
ラーメン屋さん・花屋さんの話は、まさに「マンション管理士マインドの形成(心得編)」の定番講義ですよね(笑)

【親泊】
そう。ところが、個人事業の経験がないこの某役員には、全く理解できないようで、その後に浴びせられた2つのセリフが印象的でした。ひとつめは、あなたは(マンション管理士の業務展開が)たまたまウマくいっているかもしれないが・・・というもの。ふたつめは、そんなあなたには、資格を取得しながら成業できないために資格者であり続けることを断念する者の気持ちなどは、到底理解できないだろう!・・・というものでした。

【川原】
・・・???

【親泊】
後者のセリフについては、まさに同志が業務展開で苦労することがないように、言い換えれば、それがために資格者であり続けることを断念してしまうような同志が出ないようにとの想いから、私達はプロナーズ事業を始めたとも言えるわけで、意味不明な捨てゼリフで済まされます。問題なのは、前者のセリフの方です。曲がりなりにも生業としている者に対し、そうではない者が「たまたまウマくいっている」とは、ナント失礼な物言いかということですね。

【川原】
さっき、井手さんの思い出のエピソードでも話題になりましたけど、その時点で生業としている私達が、単に運がイイだけとか、何か正攻法ではないような方法で仕事を獲得しているとか言わんばかりのセリフで、全く穏やかではありませんね。

【親泊】
そのとおりなのですよ。その当時の自分自身をして、職業としてのマンション管理士業が「ウマくいっている」などとは別に思っていませんし、浮かれてもいませんでしたが、仮に百歩譲って「ウマくいっている」とすれば、それはとりもなおさず事業者としての努力の結果なのであって、決して「たまたま」ではありません。

【川原】
当然すぎることです。この某役員というお方は、マンション管理士として業務の獲得を志向するマンション管理士ではあるものの、それ以前のこととして、個人事業者として必要な基本事項などをきちんと理論構成できないマンション管理士ということになるのではないでしょうか。そのような人が当時、管理士会にけっこういたと思います。

【親泊】
まあ、所詮はそんなレベルの話です。そこで後年、管理士会のオリエンテーション的な研修で、会内における「代表的な非礼発言」として題材にさせてもらっていたのですよ。具体的に、この者の発言は、私の「個人事業者としての努力」を冒涜しているも同然の発言である点で大変失礼なこと。どれほど失礼かと言えば、例えば、学問の最高峰を究める努力をした東大出身者に対して、東大を出ていない私が「あなたは、たまたま東大を出たかもしれないが」…と言っているのと同じぐらい失礼なことだと。

【川原】
同じ資格者であっても、これで生計を立てなければならない者と、別にそうではない者とで、マンション管理士の業務展開に関する議論がまともにできるはずもないことや、マンション管理士を生業とすることを真剣に考える者のためにプロナーズ事業が必要であったことが改めてよくわかる話です。

【親泊】
管理士会内の出来事と位置付けたとしても、マンション管理士を生業としている者に対し、そうではない者が平気でこうした発言をすることが好ましいはずがありませんし、相手が私だからよかったものの、会員同士の信頼関係の悪化にもつながりかねません。その後、日管連が設立され、現在では管理士会に入会していなければ、賠償責任保険にも加入できない時代になっていますが、もしこうした変化がなければ、生業としているマンション管理士は、どんどん管理士会から離れてしまっていたおそれもあります。

【川原】
管理士会でも、そうした歴史を振り返る対談などを企画されたらどうです?

【親泊】
異なる立場から、貴重なご提案に感謝します(笑)。しかし、さっきも話したとおり、現在の管理士会には、会の活動と個々人の活動の分別がしっかり備わっていますから、お気持ちだけいただいておきます。管理士会の会員マンション管理士からも、仕事がないという不平不満は、いつしか聞かれなくなりました。仕事がないことは、選ばれるための努力が十分ではないからであることなどについて、正しいマインドが形成されているからだと思っています。