マンションの共用部分を適正に維持していくためには、危機管理(リスクの移転)の考え方からしても損害保険の存在は欠かせません。
保険の内容は基本的には火災保険ですが、マンションの場合は共用部分を対象とした商品で、火災の他、台風被害、水災、第三者による損害等、幅広い補償が担保された損害保険となっています。また、主保険の他にいろいろな特約がついているため、管理組合の選択肢も広くなっています。

典型的な特約には、施設賠償責任保険個人賠償責任保険があります。
特に、うっかりが原因の漏水事故の他、給排水管からの漏水による水漏れが発生した際の損害賠償責任等を担保するため、これらの賠償責任保険は大変役に立ちます。
ところがマンションに係る損害保険については、築年数が経過したマンションを対象に大幅な保険料の値上げが相次いでいますが、平成26年7月以降は、築年数が一定の経過年数を超えたマンションの引受拒否を表明した保険会社もでてきました。

対応については、保険各社まちまちですが、具体的な例でいうと

  • 築年数が経過したいわゆる高経年マンション(築20年以上や築25年以上)については、新規の保険引き受けを行わない。(更新の場合は引き受ける。)
  • 新築マンション等、築年数の浅いマンションの保険料を引き下げ、逆に高経年マンションの保険料を大幅に引き上げたり、免責金(自己負担金)額を大幅に引き上げる。
  • 高経年マンションにおいては、水漏れ事故の取り扱いが多い「個人賠償責任保険」を引き受けない又は保険料を大幅に引き上げる。
  • 築年数には関係なく、過去の事故発生件数や、給排水管の更新状況を査定したうえで、個々に保険の引き受けの可否や保険料を設定する。

等です。

話はかわりますが、最近は築年数が経過(30~40年以上)したマンションでは給水管や排水管の更新工事が話題となることが多くなってきました。
以前は、更生工事といって給水管や排水管の内部にエポキシ系の樹脂をライニングする工法等が多く採用されていましたが、最近では使用材料の性能が向上し、一度更新工事を行うとその後はマンションが寿命を迎えるまで更生や更新の必要がないことから、更新工事を選択する事例も多くなっています。
給排水管の更新工事は、内装等も含めて多額の費用が掛かることや、専有部分に立ち入って工事を実施したりするため、外壁等の大規模修繕工事と比較すると円滑な工事実施が難しい傾向にあります。
そのため、計画してもなかなか実施にまでは至らず、ずるずると先延ばしになっている事例も見かけます。
また、実施できない(実施しない)ときの言訳として「もし水漏れ事故が発生しても、保険に入っているから大丈夫」といわれている方や管理組合も結構あります。
しかし、前述のように今後は築年数が経過したマンションにおいては、水漏れ事故等を担保する保険に簡単には入れないということもあり得ますので、専有部分も含めて給排水設備の管理をきちんと行うことが大切になりますね。

投稿者プロフィール

重松 秀士
重松 秀士重松マンション管理士事務所 所長
プロナーズ理事(開発担当・監査人兼務)
マンション管理士、管理業務主任者、宅地建物取引主任者、ファイナンシャルプランナー、再開発プランナー、二級建築士、二級建築施工管理技士、建築設備検査資格者、甲種防火管理者、甲種危険物取扱者。
大手タイヤメーカー勤務を経て、平成15年2月マンション管理士として独立。財団法人マンション管理センターで嘱託社員として「マンションみらいネット」の立ち上げや「標準管理規約」第22条に対応する「開口部細則」の制定に従事。現在は約40件の管理組合と顧問契約を結びながら継続的な管理組合運営のサポートを行いつつ、大規模修繕工事や給排水管更新工事、管理コストの削減、管理費等の滞納、管理規約の改正等の個別コンサルティングを実施している。