老朽化した排水管を取り替えずに再生させるライニング工法が普及を見せている。中でも高経年マンションに多く見られるクラックや穴がある排水管でも、エポキシ樹脂を浸透させた強靱な繊維ライナー(FRP)で、排水管の中にもう一つのパイプを形成するP・C・Gテクニカ(本社愛知県名古屋市、藤井金蔵社長)が開発したFRPライニングは施行実績を急激に伸ばしている。同社はこのほど、賃貸が多く、それも事務所使用の多い築41年のマンションで、同施工の特徴を最大限に発揮して見事に排水管ライニングを実現させた。

  都心ビジネス街に建つ物件のモデルケースに

 同社のFRPライニングで、雑排水管更生工事を、ほぼ1ヶ月の工期で3月上旬に終えた「仙石山アネックス」のケースは、都心に建つ高経年マンションの長寿命化実現のモデルケースになるだろう。
 同マンションは港区虎ノ門の一等地に建つ。今年10月で築41年を迎える5階建てで、1~3階が52室の事務所テナント、4,5階が20戸の住居だ。区分所有者自身が住む住居や使用している事務所もあるが、賃貸形態が8割に上る。ビジネス街に立つ典型的なマンションの一つといえる。

  展示会で各種工法研究、技術説明力が決定打に ここ十数年、漏水事故多発恐れ薬品で排水管洗浄

 賃貸形態が8割で、事務所使用が全体の7割となると、工事の難易度は急上昇。事務所ビルならテナントが営業を終えた時間などに集中的に工事もできようが、住居併設となるとそれも無理。日中も室内に入っての工事は不可能に近く、工期が長くなり、騒音や粉じんが発生する更新工事の可能性はゼロに近い。
 しかも、築41年ともなると腐食劣化が進み、排水管に穴が開いている可能性も高く、どうしたらいいのか途方に暮れる。
 同マンションでは排水管の寿命が限界に近かった。十数年前に年1回の排水管洗浄をそれまでの高圧洗浄から薬品洗浄に変更。洗浄業者から「高圧では漏水事故の危険性が高く、怖い」と言い渡されたからだ。
 管理組合は対策方法の研究に入る。建築設備改修の展示会に3回ほど出向き、各種工法のブースを訪ね、自身のマンションの現状を説明し、施工方法などを聞いた。「どこもピンとこなかったが、P・C・Gテクニカさんの説明だけが最も理解できた」という。
 「FRPライニング工法は共用部の天井の一分解体、復旧はあるが、室内立ち入りは一切ない。全てパイプスペース内での施工で済んでしまう。しかも、排水管は穴が開いていても大丈夫。当マンションの最大の難関は全てクリアできる」と管理組合は判断、同社への発注を決定する。
 施工計画の説明を受けた管理組合は正式な工事発注前に1階と5階のパイプスペースの扉の拡大を実施している。「パイプスペース内での施工で済むと言われたが、扉が小さすぎた。現状では施工性が悪く、工期も長くなる可能性がある。そこで、高さを2倍、幅を1.5倍近い扉に改修した」という。排水管劣化対策実現にようやくたどり着いた管理組合だけに、FRPライニングに対する期待の表れでもあった。
 工事は「本当に真面目にやってくれた」という。「今までいろいろな工事業者を見てきたが、特に、毎日7~8人が入った職人、手元が良かった。竣工図面と全く違う配管経路も見つけて対策を取ってくれた」と技術力の高さを評価する。
 実は、一分の排水系統が予想だにしない経路で汚水升に接続すべきところが雨水升につながっていた。事前調査で発覚、本来の経路で汚水升につなげ、雨水管を正式ルートの雨水管につなげる改善工事を実施した。
 「これが原因で当初予定より竣工が3日遅れたが、排水の流れがスムーズになり感謝している」
 管理組合は「築100年のヴィンテージマンション実現」を合言葉にする。「分譲主に聞いたら、既存不適格建物のため、現状と同規模のマンションへの建て替えは無理」といわれたことから耐震改修、そしてエレベーター2基のリニューアルも実現、着実に長寿命化を進めている。
 今回の排水管ライニング工事も、「築100年ヴィンテージマンション実現」の一歩。数年後に予定している汚水管劣化対策も同社のFRPライニング工法に期待を寄せる。
 「ヨーロッパは築200~300年は当たり前。今の日本の現状はもったいなさ過ぎる。P・C・Gテクニカさんのライニング技術で長寿命化を実現してほしいし、他の管理組合にも紹介したい」と話す。

 
以上、マンション管理新聞第1106号より。

 
 

投稿者プロフィール

福井 英樹
福井 英樹福井英樹マンション管理総合事務所 代表
マンション管理士(国家資格)・宅地建物取引士(国家資格)・区分所有管理士(マンション管理業協会認定資格で、管理業務主任者の上位資格)・マンション維持修繕技術者(マンション管理業協会認定資格)・管理業務主任者(国家資格)資格者で、奈良県初、大阪府堺市初かつ唯一のプロナーズ認定者