今年3月末時点の総合管理受託戸数が19万戸を超える住友不動産建物サービス(本社東京、岡山敬社長)が昨年、受託管理組合に取った一連の「申し入れ」が波紋を呼んでいる。管理委託費の値上げ要請と管理委託契約の更新辞退(解約)だ。同社によれば、解約を通知した物件は全受託物件の約1割にも及び、値上げ要請は基本的に「解約」以外の全物件を対象に行った。受託管理組合に対する、ここまで大規模な更新辞退は例がない。本紙の「2019総合管理受託戸数ランキング」で9位に位置する大手に何が起きていたのか。管理組合にとっては苛烈にも映る措置の背後には、管理業界全体が直面する厳しい事情が見え隠れするー。
「管理委託契約の更新辞退申し入れ」「管理委託契約の解約申し入れ」ー。昨年8月、住友不動産建物サービス(建サ)は管理業務を受託する一部の管理組合に、こんなタイトルの文書を社長名で送付した。
いずれも管理委託契約の終了を願い出る内容だ。
契約終了時期は各委託契約の更新時期に合わせているため、それぞれ異なるが、申し入れから4カ月程度で契約更新時期を迎えるマンションもあった。申し入れから更新までの期間が短い場合は、管理組合から要請があれば2019年3月末までは暫定契約で対応する意思を示していたケースもあったようだ。
管理会社変更に際する管理組合の業務スケジュールを作成し、目安として示した例も。期限は、やはり2019年3月末だった。
解約理由について文書では、「現場スタッフをはじめとした人手不足が続いており、安定的に良質な人材を確保することが非常に難しい状況」だとし「このような事情を総合的に勘案した結果」契約終了を申し入れた、と説明している。
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昨年9月。東京都内の大規模マンション管理組合理事長は困惑していた。建サから従来の4割近い管理委託費の値上げを求められていたからだ。
「この値段で無理なら管理業務は受託できない」と迫られ、建サも含めた「新管理会社」の選定に歩を進めていた時期だった。
管理業務には、何の不満も感じていなかった。
「フロントの方をはじめ、本当に良くやってくれている」と評価もしていた。新管理会社候補に建サを加えたのは、そんな評価があったからだ。ただ、提示していた価格以下での業務受託を拒否するなど、業務に対する評価を突き返すような建サの姿勢に、ショックを感じているようにも見えた。
「住友さんに業務を続けてほしい気持ちがあるが、大幅な値上げは、管理組合としては認められないし。。。」と理事長。
「値段は下げないと言っており、交渉も難しい雰囲気がある。おそらく別の管理業者に委託することになると思います」
結局、この管理組合は別の業者に管理業務を委託する道を選んだ。
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建サは昨年、管理受託物件の大規模な見直しを行っている。
建サをよく知る関係者におれば、実情はこうだ。
事の発端は昨年7月。フロント社員らに対し①採算が取れていない物件に対して委託費の値上げを求める②リプレイスで獲得した既存の他社物件(非親会社分譲物件)は委託契約を辞退するーよう、岡本社長から指示があった。
②については「今現在赤字になっていないマンションは辞退をしなくてもよいが、ゆくゆくは辞退をお願いしていく」とする方針も示された。今年3月末までに新しい管理会社に引き継ぎ契約を終了させ、4月から切り替えができるようにするー。そんな指示もあった。
委託費に関しては、社内基準に満たない物件に値上げを要請。この関係者は「おおむね理解は得られたようだ」とする。
一方で、「契約辞退」を迫られた管理組合からは「まずは値上げがあって、その後に辞退というのが筋ではないか」などとする追及もあったというが、「気の毒だとは思うが、上からの指示。それ以上のことは分からないし、フロントは対応に苦慮したとは思う」と話す。
約1割に「辞退」を通知
建サの総合受託規模は今年3月末時点で2650棟。19万721戸。管理組合数は2247に及ぶ。
大手各社で近年活発に行われるようになった企業買収・合併などによる受託規模の増大は行わず、親会社の分譲物件とリプレイス、つまり非系列会社が分譲した既存物件の業務獲得との「合わせ技」で実績を伸ばしてきた。
リプレイスに乗り出した時期は20年ほど前とされ、大手では比較的古くから他社物件の獲得に積極的な姿勢を見せていた経緯がある。20年前と比べ総合管理受託戸数は3倍近くになった。
その建サが管理物件を自ら手放す決断をした。業界では驚きの声が上がったが、管理組合サイドからは「この値段でやりますよ、と言ってきたのは業者(建サ)の方。それなのに一方的に契約辞退というのは業者として無責任ではないか」とする批判がある。
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建サに今年7月、昨年からの委託費値上げ、契約辞退について聞いた。
建サは事実関係について大筋で認めた上で、委託費値上げについては「社内の基準に照らし合わせ、基準に満たないマンションには値上げを提案させていただいた」と説明。ただ契約辞退は「現場スタッフをはじめとした人手不足が続いており、人材の確保が困難なマンションに対して行った」。関係者の話とは、色合いが異なる回答だった。
リプレイス物件で契約辞退を申し入れるよう指示したのでは、と聞くと「誤解がある。そういう指示をした、という認識はない」と答えた。
「時代の流れの中で決断した」
契約辞退は受託組合の約1割に通知。値上げ要請は、それ以外の物件、「基本的には全物件でお願いし、おおむねご理解をいただけた」とする。
建サは「今までは管理組合の値下げ要求や相見積もりなどに対し、なすすべなく金額を下げてきた。管理業は『ストックビジネス』という認識があり、管理受託戸数など数に重きを置いてきたため不採算物件でも業務を行っていた」と話す。
「もっと早く(値上げを)すべきだったが(値上げ提案を)怠ってきてしまった」
契約辞退については、まず人手不足に言及。現場スタッフとして採用の主力になる60歳代が集まらず「人材の確保ができない地域がある」としたうえで「誰でも雇えばいいという、というわけにあいかない」と厳しい雇用環境を明かした。
人手不足は管理員等の現場スタッフにとどまらず、清掃員、24時間常駐管理スタッフなどにも及ぶ。
現場スタッフ不足でフロント社員が疲弊する懸念もあるという。フロントが現場の穴を埋めなければならないケースがあるからだ。
「いいサービスを提供しなければならない。フロント社員が担当する、一人当たりの管理組合数も今後は減らしていきたい」
人手不足の物件で「契約辞退」を申し出たのは、こうした状況ではサービスの品質を保てないとする判断もあったようだ。
企業としては、親会社を含む「住友」というブランドと「住友」としての品質を守らなければならない。そのために業務レベルの維持・向上が見込めない物件を「切った」というわけだ。
契約辞退を申ししれた管理組合に対しては「ご迷惑をお掛けしたと思うが、一つの時代の流れの中でこうした決断をさせていただいた」とし、「苦渋の決断」であることをにじませた。
現在 建サは「リプレイスは行っていない」と話している。
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同業他社は一定の理解 「今までよくこの金額で」
建サから契約辞退を迫られた管理組合は昨秋以降、新管理会社の公募・選定を余儀なくされた。委託費の値上げに納得できなかった管理組合も同様の動きを見せたため、管理業界の「リプレイス」市場は、ちょっとした活況を呈した。
公募に参加した大手管理会社社員は「建サの『放出物件』は少なくても100件以上は超えていたと思うと振り返る。
「放出物件」で目についたのは、委託費の安さだ。
「よくこの金額で今までやっていたなと感じるものばかりだった」
このため建サが行った委託費値上げ要請については「ほかの物件でもこの価格設定なら、当然の措置だと思う」と理解を示す。
中堅管理会社でリプレイスに関わる社員も「5,6件見たが委託費が安い。人件費などは『とてもこれではやれない』という金額でやっている」と驚いていた。
価格競争力には定評のある管理会社の社員も「委託費が安い。うちで業務委託することになった案件でも、従前から2割くらい値上げになっている」と話した。
建サが契約辞退を迫った点について、大手管理会社の社員は「まず値上げを提示して、管理組合が応じなかったら辞退する、というのが筋」としたが「うちでも正直、『お荷物』になっている管理組合を切りたい、と感じることはる」とこぼす。
「だが、実際にはなかなか切れない」。親会社らの新規供給物件が減っているため、総合管理受託規模を減らすリスクに配慮するからだ。
「業界に一石を投じた」指摘も
管理物件の放出は「(建サの)英断だと感じる」と、契約辞退を評価する声もあった。
「これまで、『どんな案件でも。抱えていないといけない。管理組合の無理な要求にも応じなければいけない。』とする風潮があった管理業界に一石を投じた」というのが理由だ。
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直面する課題が噴出
建サが契約辞退を決断した理由については人手不足に加え、「数年前管理物件でトラブルが起きたが、それがリプレイス案件だったためで『もうリプレイス物件は切れ』となった、と聞いている」(大手管理会社社員)など、さまざまな憶測が流れる。
ただ建サが理由に挙げた「人手不足」は、建サだけの問題ではなく、管理業界全体が直面している。「委託費」にしても同様で、単純な価格競争は、すでに限界に来ている。
本紙が管理会社30社を対象に実施したアンケート調査では「従業員の人手不足を感じているか」「管理委託費の値上げの必要性を感じているか」の問いに、30社全てが「従業員不足」「委託費値上げの必要性を感じる」と答えている(4・5面にアンケート調査結果の一部を掲載は省略)。
また、7割以上が「管理組合に契約辞退などの措置を取ることがある」と回答した。
「建サショック」は業界を覆っている。
以上、マンション管理新聞第1118号より。
マンション管理士として、上記管理会社の現状と実情を心得ておくべきものと思われます。
投稿者プロフィール
- マンション管理士(国家資格)・宅地建物取引士(国家資格)・区分所有管理士(マンション管理業協会認定資格で、管理業務主任者の上位資格)・マンション維持修繕技術者(マンション管理業協会認定資格)・管理業務主任者(国家資格)資格者で、奈良県初、大阪府堺市初かつ唯一のプロナーズ認定者
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