重松マンション管理士事務所の業務中でも相談が多い業務の一つに管理費等の滞納問題があります。
今回は、管理組合の財政状況に大きな影響を与える管理費等の滞納問題について書かせていただきました。
国土交通省は5年ごとに、全国のマンションの総合調査を実施しています。直近の調査は平成20年度に実施されています。その報告書によると、3か月以上の滞納があると回答した管理組合は、全体の約40%近くあります。マンション総合調査は、国土交通省が任意に抽出した管理組合に対し質問用紙を郵送で送り、回答も郵送でお願いするシステムになっています。回答してくる管理組合は、かなり管理意識や管理レベルが高いことを想像すると、全国レベルでマンションをみた場合は、滞納問題を抱えている管理組合の割合はさらに多いのではないかと思われます。

管理費等の滞納問題の特徴

管理費等の滞納には、以下の特徴があります。

滞納金額は総じて少ない。

管理費等(管理費、修繕積立金、駐車場使用料等)の金額は月額ではせいぜい2万円~3万円ですので、1年間滞納を続けても30万円程度です。この金額を多いとみるか少ないと見るかは管理組合の予算規模等にもよりますが、多くの管理組合ではこの程度の金額が重大な問題であるとの認識はなかなか抱きません。だからつい放置してしまいがちになります。滞納は良くないことだとわかっていても、管理組合は適切な対応方法が分からず、1年~2年という理事の短い任期の間において一番後回しになる傾向があります。また早めに弁護士さんに依頼して解決したいと思っても「弁護士報酬は高い。」、「この程度の金額でわざわざ弁護士さんを起用するのは費用対効果のことを考えても。。。」等となり、「そのうち何とかなるだろう」といいながら、次期理事会に引き継ぐことが多くなります。

問題は長期化しやすく且つ解決しにくい。

ところが最初は少額で何とかそのうちに払ってもらえるだろうと思っていても、だんだん金額が大きくなって大変なことになるのが滞納問題です。管理費等は区分所有者である以上必ず毎月支払わなければなりません。つまり区分所有者である限り支払い義務は永久に続きます。たとえ話で恐縮ですが、民間企業であれば金払いの悪いお客様には商品を売らないという選択肢もありますが、管理組合の場合はそれが出来ず、金払いの悪いお客様と分かっていても、商品を毎月売り続けているような状況になります。滞納をしている側においても、最初の内はたかが2~3万円なのでいつでも払えると思っていても、徐々に滞納額が膨らんで数十万円になると一括で弁済することが出来なくなり、そのうち支払意欲もなくなってきます。
これに追い打ちをかけるのが管理会社の対応のまずさです。そもそも滞納されている管費等は管理組合の債権であり、回収できなくても管理会社は一向に困りません。管理組合と締結している管理委託契約書には、滞納者への督促業務が手順を追ってきちんと記載されていますが、「書面督促」は形式だけの書面が郵送されるだけですし、「訪問督促」といってもマンションを訪れるついでに訪問する程度です。「夜討ち朝駆け」で滞納者を追いかけることはありません。また最近では、管理会社が自らの名前で滞納督促を行うことは弁護士法で禁止されている「非弁行為」 にあたるという解釈もあり、なかなか積極的にできないという事情もあります。

再発しやすい。

私の先輩たちの話を聞くと、昔の滞納は、ご主人が病気で入院してしまったとか、会社が倒産した等理由がはっきりしており、滞納している本人も管理組合に対して申し訳ないと思う気持ちが強かったそうです。そして何とかして立ち直り、その後は滞納している管理費等を少しずつ払って完済するケーが多かったと聞いています。
ところが最近の滞納問題は事情が少々違います。滞納常習者には、管理費等は必ず支払わなければならないという気持ちが薄く、あくまで個人的な印象ですが、若干ルーズな人が多いように思えます。私が経験した事例でも、携帯電話(今はスマホ?)の料金は払うけれど管理費等は滞納するケースもありました。理由を聞くと「携帯を止められたら生活できないから。。。」と・・・。確かに私も携帯を止められたらとても困ります。ですが、管理費の場合は延滞したからといって止められる(強制退去とか)にならないため、また、共有して管理している部分があり、それらによって快適な生活が保たれているとか、居住者同士で助け合ったり協力しながら生活する部分があるという、基本的なマンションの仕組みへの理解が十分でないからか、優先順位の感覚がおかしくなっているように感じます。そして、あくまで私の経験上の話ではありますが、残念ながら、このようなタイプの人は、厳しい督促や法的措置を受けて一旦は支払っても、又すぐに滞納を始める傾向があります。

絶対に解決させる必要がある。

企業の場合は、会社の事情を考慮したり、税法を活用して「債権放棄」や「不良債権処理」などの方法で問題を解決する場合もあります。しかし、管理組合の場合は、よほどのことが無い限りそのような解決方法を取ることはできません。また、いうまでもなく管理費等は管理組合の大切な共有財産です。収入が管理費等に限られる管理組合では、企業のように「また頑張って稼げばいいじゃないか。」とはなりません。そして滞納をしている人にも同じことがいえます。年金保険料や税金等であれば、何らかの事情で生活が苦しくなった人に対しては減免する措置がありますが、管理費等に関してはそのようなことは一切ありません。理事会で協議し、事情を考慮して分割払いなどの方法を受け入れることはあっても、最終的には必ず払っていただかなければならないのが管理費等なのです。いいかえれば、完全に回収する以外には問題解決の道がありません。

滞納が引き起こす問題点

次に、管理費等の滞納が引き起こす問題点を見てみましょう。

資金不足

マンションは、その資産価値の維持や、居住者が気持ちよく安心して生活できる環境を維持するために、計画的に修繕工事を実施していくことが必要です。これを一般的には大規模修繕工事といい、数千万や数億円の多額の資金を使って実施します。管理組合には現在いくらの修繕積立金があるかは貸借対照表を見ると分かります。「繰越金」、「剰余金」、「正味財産」等の項目で記載されています。ところがこの額は現金の保有額ではなく、預金や金融商品を含めた場合の管理組合の財産の総額です。そしてその中には「未収金」いわゆる滞納も含まれています。預金や金融商品を現金化することはさほど難しくありませんが、未収金は現金化できません。つまり名目上の財産はあっても、工事費用の支払いに充当する現金が足りないという状況になることがあり、工事が実施できない事例があります。
更に悪いことには、不足資金を住宅金融支援機構等の金融機関から借り入れて工事を実施しようとしても、一定割合以上の滞納がある管理組合は、金融機関がお金を融資してくれませんのでやはり工事が実施できない状況になり、マンションの適正な維持・管理が出来なくなります。

不公平感

一般の区分所有者は、滞納問題に関する情報を知ることがなかなかできません。
個人情報やプライバシーが関係する繊細な面もあり、簡単に情報公開ができないからです。区分所有者が滞納問題の存在を知るのは、総会の決算報告のときになります。前述のとおり貸借対照表の「資産の部」に未収金として計上されます。管理会社や理事会も未収金を回収できない無策ぶりを露呈するのも嫌なので、決算報告のときに、さら~と報告するだけですと、会計に詳しくない一般の区分所有者はほとんど気が付かないで総会が終わってしまう場合もあります。
ところが、多額の未収金が発生していることが分かると大変です。「自分たちだって生活が苦しい中できちんと払っているのに。。。」から始まって、「滞納している人たちは、私たちが払っている管理費で生活しているのね。」となります。そして不公平感が募ると問題が他に波及してきます。例えば、マンション敷地内にルール違反で駐車している人に対して「やめてください。」とお願いしても、「俺は管理費をきちんと払っているのだぞ!滞納しているやつの方を先に片付けろ!」、ペット禁止のマンションでペットを飼育している住民に注意しても「私は管理費きちんと払っているのよ!」といわれると、理事会としては「それとこれとは別でしょ!」となかなかいえないものです。そうしていくうちに、ルールが守られないいい加減な管理状態のマンションになってしまうこともあります。

理事会の負担の増大

これが一番の問題なのです。理事会の本来の業務は、マンションの日常の維持管理、総会で決議された事業計画の執行、管理規約で決められた業務の遂行等です。その他に、最近では防災、防犯やマンション内のコミュニティ形成などにも取り組む場合もあります。1年間の内にこれらの業務を行わなければなりませんが、そこに滞納問題が発生するとやっかいなことになります。最初に申しあげたとおり、専門的知識に乏しい区分所有者で構成される理事会が、滞納問題に取り組むには骨が折れます。つまり、滞納問題に真剣に取り組もうとすればするほど、時間・労力・コストがかかり、本来理事会が取り組むべき業務の方に手が回らなくなります。理事会は真剣に業務に取り組んでいるのに、居住者からは文句をいわれ、自分自身も多くのストレスをため込むことになり、心身共に疲弊していきます。

まとめ

今回は、滞納問題の基本的な部分を述べるにとどまりましたが、管理費等の滞納を放置しておくと重大な結果を招くことはご理解いただけたと思います。
問題解決のための具体的は方法等に関しては、またの機会にお話しさせていただきますので、現在滞納問題で本当にお困りの場合はご遠慮なくご相談ください。
滞納問題解決の方法は根気よく取り組むことしかありませんが、ポイントとして以下の点を挙げておきたいと思います。

  1. 管理組合は、「滞納は絶対に許さない。逃げ得はあり得ない」ということを常に発信し続ける。
  2. 滞納問題は必ず早期に対応する。時間がたてばたつほど解決は難しくなる。
  3. 滞納問題で管理組合が裁判等の法的措置をとることは決して悪いことではなく、滞納している本人にとっても、早いうち(少額のうち)に意識を変えて返済していただく方が、結果として大事にならずに済んで良い場合も多い。もちろん、安易に、機械的に、滞納=即法的措置、ということではありません。

以上です、いかがでしたでしょうか。

最後に、過去に私が関与した滞納問題において経験した事例や、滞納している人と面談して話し合った際にびっくりした会話等をご紹介します。これをご覧になっても、理事会が滞納問題を解決するには相当苦労しそうだということがお分かりになると思います。

  1. 今まで管理費等をきちんと払っている区分所有者が輪番制で理事になり、多くの滞納者がいることが分かった途端に自分も滞納を始めた事例
  2. 管理組合の掃除の仕方が悪いから飼っていた金魚が死んでしまった。だから管理費は払わない!と開き直る事例
  3. 管理組合からお金を借りているわけでもないのに、督促状に遅延損害金の請求が書いてあるのはどうしてだ!おかしいじゃないか!と逆に理事会を責める事例

その他、挙げたらきりがありません。本当に大変ですね。。。

投稿者プロフィール

重松 秀士
重松 秀士重松マンション管理士事務所 所長
プロナーズ理事(開発担当・監査人兼務)
マンション管理士、管理業務主任者、宅地建物取引主任者、ファイナンシャルプランナー、再開発プランナー、二級建築士、二級建築施工管理技士、建築設備検査資格者、甲種防火管理者、甲種危険物取扱者。
大手タイヤメーカー勤務を経て、平成15年2月マンション管理士として独立。財団法人マンション管理センターで嘱託社員として「マンションみらいネット」の立ち上げや「標準管理規約」第22条に対応する「開口部細則」の制定に従事。現在は約40件の管理組合と顧問契約を結びながら継続的な管理組合運営のサポートを行いつつ、大規模修繕工事や給排水管更新工事、管理コストの削減、管理費等の滞納、管理規約の改正等の個別コンサルティングを実施している。