こんにちは。重松マンション管理士事務所会長の重松です。

今年の3月、マンションの大規模修繕工事に関して談合の疑いがあるとして、大手工事会社等を含む複数の会社に対し、公正取引委員会による立入検査が行われたというニュースが各所で報じられました。ご存知の方も多いと思います。

大規模修繕工事の談合・不正については、2009年より、これまでも繰り返し当ブログでお伝えしてきましたが、長年この問題に関わってきた立場から、独自に調査した内容も含めてお伝えしていきたいと思います。

いまだに続く、大規模修繕工事と談合・不正の実態

【イラスト】談合のイメージ管理組合にとって、大規模修繕工事は十数年に一度の一大事業です。
マンションの規模にもよりますが、数千万円から数億円(規模によっては10億円以上)の費用がかかるため、工事の「透明性」と「公正性」は何よりも重要です。

しかし、実際はどうかと言えば・・・
2019年に「悪質な設計コンサルタントによる談合の手口」でもご紹介いたしましたが、良かれと思って発注した設計コンサルタント(設計事務所)が主導する「特定業者ありき」の見積取得による談合や不透明な業者選定が後を絶ちません。

見かけ上は複数の業者から見積を取得し、競争原理が働いているように見せかけつつ実際は「出来レース」。
残念ながら、こうした行為がいまだに続いているのが実態なのです。

ついに動いた公取委。立入検査対象や調査内容は?

そうした中、公正取引委員会が、今年の3月から4月にかけて、関東地方のマンションにおける大規模修繕工事において受注調整(いわゆる談合)を繰り返していた「独占禁止法違反(不当な取引制限)」の疑いがあるとして、大手を含む約30社の工事会社に対し立入検査を実施しました。

【イラスト】公正取引委員会の立入検査報道によれば、対象となったのは、

  • 独立系大手の「建装工業」
  • 長谷工グループの「長谷工リフォーム」
  • 清水建設グループの「シミズ・ビルライフケア」
  • 大京グループの「大京穴吹建設」
  • 三井住友建設グループの「SMCリノベーション(SMCR)」
  • YKKグループの「YKK APラクシー」

など、いずれも業界大手の企業です。

さらに、工事会社の選定に関与していた複数の設計コンサルタント会社にも事情聴取が行われ、その中の一つ翔設計には資料提供の要請があり、調査に協力しているとのことです。

広がる調査対象。大規模修繕工事にかかわる根深い不正問題

報道されている会社は大手を中心とした会社でしたが、その後私なりに調べたところ、中小規模の会社にも調査が入っていることも分かりました。
また、明らかに「白状しろ!」という調査と「色々調べているので業界のことを教えて欲しい」という依頼などもあって調査内容は様々なようです。

今回、公取委が立入検査を行なった経緯は、まだはっきりとは分かりません。

【イラスト】悪質な設計コンサルタントしかし、背景として考えられるのは、2017年に国土交通省が発出した通知です。
この通知では、不適切な設計コンサルタントにより、大規模修繕工事において管理組合が修繕積立金を不当に搾取される被害にあっている実態を受けて、具体的にその生々しい事例が紹介されています。
(※詳細は、過去のブログ「大規模修繕工事の不適切コンサルタントについて(国土交通省からの通知)」をご覧ください)

にもかかわらず、依然として業界の談合や不正が改善していない実態を知って、ついに公取委が動いたのではないかと考えています。

私自身も感じていることですが、先の2017年の国交省の通知から現在まで、この業界の談合体質は全く改善していません。
それどころか、ますます手口が巧妙になり、最近では理事や修繕委員へのなりすまし事件も報道されています。(※なりすまし事件については、次回ご紹介予定です)

今回の立入検査により、談合だけでなく、そうした悪質な行為の実態も解明されることを期待しています。

管理組合が今できる4つのこと

今回の公取委の動きは歓迎すべき第一歩ですが、談合や不正がこれでなくなるとは思えません。今回は大規模修繕工事の工事会社に焦点が当てられていますが、もっと問題なのは、談合を裏で取り仕切っている設計コンサルタントや管理会社です。
ここにメスが入り、実態が明らかにならないと改善は望めません。

そして、管理組合自身の意識改革も不可欠です。
具体的には以下の4点です。

設計コンサルタントは「安さ」だけで選ばない

【イラスト】キックバックを受けてほくそ笑む悪質な設計コンサルタント単純に「安い=お得」と、安さだけで選んでいませんか?

悪質な設計コンサルタント(設計事務所等)は、「設計料を安く見せて、談合後の工事段階でキックバックという形で回収する」という手法をとります。
見積は合計金額だけでなく、内訳(工数・単価・業務内容)を丁寧に比較し、不明点はしっかり確認することが大切です。
単純に「安い=お得」と捉えるのではなく、「安く見せている=裏があるかも」と疑う視点を持つようにしてください。

候補業者の選定条件を吟味する

【イラスト】お金を見てほくそ笑む悪質な設計コンサルタント「入札にすれば安心」「公募だから公平」「大きな会社は不正をしない」、そう思っていませんか?

実際には、仲間内で談合を行っている会社は公募や入札に慣れており、形式的な条件にはすぐに対応できてしまいます。
また、業界を問わず、誰でもが知っている大きな会社であっても、不正に関する報道がされてきていることは、周知の事実です。
そして、条件が厳しすぎるために、堅実で真面目な会社が応募できない、あるいは選ばれない状態を生んでしまうこともあるのです。

評価基準の内容や選定条件は、本当に妥当か、そこに「排除の意図」が見え隠れしていないか、よく吟味してください。

住民への丁寧な説明と情報開示

【イラスト】大規模修繕工事の住民説明会「なぜこの設計事務所に依頼するのか」「なぜこの工事会社を選ぶのか」、納得できる説明を受けてきましたか? あるいは、きちんと説明できますか?

住民にとって分かりやすく、納得できる説明ができることが、不正を防ぐ第一歩です。
これは、特定住民(理事や専門委員)と工事会社等との癒着によるトラブルを防ぐのにも有効です。

丁寧な説明と情報開示により説明責任を果たすこと、そしてそれに伴う「情報が開示されている」という安心感が、住民との信頼関係を支え、円滑な大規模修繕工事の実施にも繋がります。

信頼できる第三者を加えたチェック体制の構築

自力で難しい場合は、設計コンサルタント任せにせず、マンション管理士をはじめとした、管理組合の立場に立ってくれる、信頼できそうな第三者にセカンドオピニオンを求める、または、パートナーに起用し、第三者を加えたチェック体制を築くことで、事前のリスク回避が可能になります。

その他、過去のブログにもいろいろ書いてきましたので、「よそでは聞けない!大規模修繕工事を円滑に進めるためのヒント」「マンション大規模修繕工事における談合の実態について」「悪質な設計コンサルタントによる談合の手口」等もご参考にしていただけると幸いです。

もしも設計コンサルに疑問が生じたら・・・

既に設計コンサルタントを選定したものの不信感を持っている、あるいは、特に不信感はないが不安はある場合、「工事会社選定をやらせないこと」によって、談合・不正を防ぐことは可能です。
また、時にはやり直す覚悟を持つことも必要だと思います。

さいごに

もしかしたら、「工事がきちんと終わっていれば、談合くらい...」と思う方もいるかもしれません。
区分所有者全員の共有財産であるマンションの一大事業、大規模修繕工事において、「きちんと終わっている」ことも含めて合意形成できているならそれでもいいかもしれません。

しかし、前述の国交省の通知でも報告されていたように、設計コンサルタントに実態がなく本来やるべきことをしていない(調査診断・設計をしていない)、仕様書等に多数の問題が発見された等が、現実に起こっています。

談合等の不正行為は、単に金額が高くなるというだけの話ではなく、本来機能するはずの競争原理や役割が機能しない危険性があるのです。
仲間であり多額のキックバックをしてくれる工事会社相手に、果たしてきちんとした工事監理を期待出来るものでしょうか。

そして、談合等の不正行為によって失われるのは、コツコツと積み立ててきた大切な「お金(修繕積立金)」だけではなく、積み重ねてきた「努力そのもの」です。
加えて、もし後から談合等の不正行為が発覚するようなことがあれば、管理組合や修繕委員会への「信用」、そして住民間の「信頼関係」、場合によってはマンションの「資産価値」にも影響が及ぶことは、容易に想像できるのではないでしょうか。

長年にわたり、ブログ等を通じて繰り返し警鐘を鳴らしてきましたが、ようやく国がこの問題に本格的にメスを入れ始めました。
こうした不正行為が横行していたために、これまで、「工事の質を保ちつつ、価格も適正にすること」が、簡単なようでいて、実際にはなかなか難しかったのが実態です。

どこまで解明されるかはわかりませんが、この機会を、ぜひ今後の大規模修繕工事に活かしていただきたいと思います。重松事務所でも、引き続き管理組合の目線に立ってしっかりサポートしていきます。

次回は、なりすまし事件の事例を深掘りしてご紹介する予定です。

投稿者プロフィール

重松 秀士
重松 秀士重松マンション管理士事務所 所長
プロナーズ理事(開発担当・監査人兼務)
マンション管理士、管理業務主任者、宅地建物取引主任者、ファイナンシャルプランナー、再開発プランナー、二級建築士、二級建築施工管理技士、建築設備検査資格者、甲種防火管理者、甲種危険物取扱者。
大手タイヤメーカー勤務を経て、平成15年2月マンション管理士として独立。財団法人マンション管理センターで嘱託社員として「マンションみらいネット」の立ち上げや「標準管理規約」第22条に対応する「開口部細則」の制定に従事。現在は約40件の管理組合と顧問契約を結びながら継続的な管理組合運営のサポートを行いつつ、大規模修繕工事や給排水管更新工事、管理コストの削減、管理費等の滞納、管理規約の改正等の個別コンサルティングを実施している。