今回は、マンションにとって大変重要な長期修繕計画についてご紹介させていただきます。
重松マンション管理士事務所では、自らが建物調査や診断等を行い長期修繕計画書を作成するという業務は原則としてやっていません。
きわめて戸数が少なく、専門会社や管理会社に依頼する予算が取れない場合などは例外的に受託することもありますが、当事務所の業務は専門業者が作成した長期修繕計画書の内容をチェックしたり、又は管理組合が専門業者(設計事務所や管理会社等)を選定する際の支援や、選定後の専門業者が、きちんとした長期修繕計画書を作成するようにチェックや指導をしたりすることです。

はじめに

下記の表を見てください。長期修繕計画と修繕積立金は密接な関係にありますのであえて紹介させていただきます。
これは平成23年度に国土交通省(以下「国交省」)が公表したもので、新築マンションの適正な維持管理に必要な修繕積立金の額に関する資料です。
国交省がこのデーターを公表した理由の1つは、全国のマンションを調査した結果、適正な額の修繕積立金が積み立てられていないマンションが多く、大規模修繕工事を実施する際に、管理組合が積み立てている修繕積立金だけでは工事費が調達できなかった管理組合が約25%あることが分かったからです。
新築時から適正な修繕積立金を徴収し、計画修繕を実施するために必要な資金を積み立てておくことを勧めています。

   (算出式) Y=AX(+B)
     Y:購入予定マンションの修繕積立金の額の目安
     A:専有床面積当たりの修繕積立金の額(下表) 
     X:購入予定マンションの専有床面積(㎡)
    (B:機械式駐車場がある場合の加算額)

表1 専有床面積当たりの修繕積立金の額(A)
  表1 専有床面積当たりの修繕積立金の額(A)

表2 機械式駐車場がある場合の加算額(B)
  表2 機械式駐車場がある場合の加算額(B)

出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」

計算式はさほど難しくありませんが、具体的事例を当てはめてみましょう。
たとえば、専有部分の平均面積が70㎡で、50戸のマンションを想定してみます。専有部分の面積は70×50=3,500㎡、共用部分の面積もほぼ同じくらいですから、建物の延べ面積は7,000㎡となります。上の表1の黄色の部分に当たります。国交省の調査結果では、毎月202円/㎡の修繕積立金が必要になります。
つまり専有面積70㎡の場合は、202円×70㎡=14,140円の修繕積立金を新築時から毎月積み立てる必要があるということです。
更に機械式駐車場のあるマンションの場合は、上記のほかに表2のとおり1パレット当たり、約6,000円~14,000円のお金が毎月、修繕積立金として必要になります。

これはあくまでも国交省が一定の条件のもとに実施した調査等により算出したもので、サンプル数もさほど多くありませんので絶対的な数字ではありません。
しかし、実際に販売されている新築マンションでは、修繕積立金の額が月額5,000円程度(㎡当たり100円未満)という例はいくらでもあります。
理由は、分譲業者が最初から適正な金額の修繕積立金を設定すると、購入希望者の購入意欲を削ぐ可能性があり、販売しにくくなるからです。
そのようなマンションを購入した場合は、あとで大幅な値上げが必要となったり、大規模修繕工事の際に各戸から一時金を徴収したりしなければならなくなります。
しかし、平成20年度に国交省が実施したマンション総合調査 においても、全国のマンションにおける修繕積立金の平均額は156円/㎡ですから、ほとんどのマンションで適正な金額の修繕積立金が徴収されていない実態がお分かりになると思います。

長期修繕計画が持つ3つの意義

長期修繕計画を作成する目的(意義)は以下の3とおりです。

1.将来見込まれる修繕工事の内容・おおよその実施時期・概算金額等を明確にしておく。

このような内容をなるべく正確に組合員に知らせておくことは当然のことでしょう。
そのために標準管理規約 では、長期修繕計画の作成や変更は総会の議決事項となっています。基本的な考えは、竣工当初の状態まで建物や設備を回復させることとなっていますが、税率を含む法律の変更、物価水準の変化、生活水準の向上等に応じて内容を変更していく必要がありますので定期的に見直すことが重要です。
国交省では、その期間をおおむね5~6年が望ましいとコメントしています。

2.修繕積立金を算出する根拠とする。

冒頭でも述べましたが、これも大変重要なことです。
適正な額の修繕積立金といっても、何を根拠に金額を設定したらよいのかが曖昧であっては、改定する際にも組合員に対して説得力がありません。
昔は「住宅金融公庫基準」というものがあって、築5年未満は月額6,000円、10年未満は7,000円、17年未満は9,000円などと言われていました。しかし、これは基準となるマンションが、旧日本住宅公団が建設した団地を対象にしていると思われます。
つまり、専有部分の面積が少ない(55㎡程度)、エレベーターや機械式駐車場がない(高額な設備更新費用がかからない。)、戸数が多い(スケールメリットがある。)、などであり、最近のマンションとは事情が大きく異なりますので、近頃はこの基準はあまり聞かれなくなりました。

3.修繕工事等の概要を総会等で合意しておくことにより、計画修繕の円滑な実施を図る。

マンションの大規模修繕工事には、数千万や億単位という多額の費用がかかります。当然に、総会の決議を経て実施することになりますが、多額の費用を支出するため、組合員の合意形成が重要となります。
理事会はこの合意形成を円滑に行うために、長い期間をかけて工事の必要性、金額の妥当性、発注先選定の経緯等を組合員に丁寧に説明していくこととなります。
その際にも、あらかじめ総会で承認を得た長期修繕計画があれば合意形成がしやすくなります。但し、注意していただきたいことは、たとえ長期修繕計画が総会で承認されたとしても、大規模修繕工事の実施、修繕積立金の改定や取り崩しには、別途総会決議が必要です。

長期修繕計画のチェックポイントと上手な使い方

それでは長期修繕計画のチェックポイントと上手な活用方法についてお話ししたいと思います。

長期修繕計画書を見る時のポイント

検討期間

長期修繕計画というくらいですから、検討する期間はあまり短くてはいけません。
国交省のコメントでは新築マンションでは30年以上、既存マンションでは25年以上となっています。しかし40年や45年では、そんな先のことまでは想定しにくいと思いますので35年くらいが限度ではないかと思います。また、長期修繕計画は一度作成したらそれで終わりではなく、前述のように定期的に見直しをしていくことが重要です。

工事項目

マンションを適正に維持・管理していくために必要な修繕項目が計上されていなければなりません。長期修繕計画書は専門の設計事務所や管理会社にお願いして作成することが多いのですが、ややもすれば設備に関する工事項目が不足している場合があります。
具体的にはポンプ類、照明機器、消防設備、通信設備等です。その理由は、設備の専門家が長期修繕計画の作成にかかわらず、建築の専門家ばかりがかかわっている場合が多いからです。また、機械式駐車場があるマンションでは、更新も含めて多額の金額がかかりますので、別途メーカーに依頼して正確な数字を落とし込むことが大切です。
長期修繕計画書を見る時には、このあたりも注意していただければと思います。

資金計画

工事項目と実施時期、及びその概算金額だけを記載した長期修繕計画を時々見ることがありますが、それだけでは不完全です。
何度も申し上げるとおり長期修繕計画と資金計画(修繕積立金)は密接な関係にありますから、今後の一定期間に必要な計画修繕の費用を賄うためには、現在の修繕積立金の徴収方法でよいかどうかは必ず検討の対象となります。
下に示すようなグラフで表記するのもわかりやすい方法です。

修繕工事費と修繕積立金(改善)

その他

長期修繕計画を作成する際の管理組合の考え方等も日ごろから議論をして整理しておくとよいと思います。
たとえば、築35年前後に実施する修繕工事は特に多額の金額が必要となる工事項目が増えてきます。具体的には、給排水管の更新、玄関扉や窓サッシの更新等です。
この場合、専有部分である横引き配管や内装工事等は、ルール通り個人負担とするのか、それとも修繕積立金を使って一斉に工事するのか、窓サッシ等についても、更新費用の負担をどのように考えるか等によっては修繕積立金の額が大きく違ってきます。

長期修繕計画書の上手な活用方法

常に組合員に広報しておく

長期修繕計画は、日常から組合員に周知しておくことが大切です。一つのアイデアとしては、たとえ変更がなくても毎年の総会の際には、総会議案書の末尾に添付して配布するなどするとよいでしょう。前述のとおり、計画修繕を実施する際や長期修繕計画を変更する際の合意形成が円滑に進むはずです。

計画修繕項目の消化状況(実施状況)を毎年確認する。

長期修繕計画の定期的な見直しは5~6年毎と申し上げましたが、毎年の総会終了後には、その期に実施した工事や逆に実施予定になっていたけれど実施しなかった工事をチェックしておくとよいと思います。
計画修繕工事は、必ずしも長期修繕計画書のとおりに実施しなければいけないということはなく、傷み具合や資金の関係等で先送りになったり、前倒しになったりすることはあり得ます。
その際には手書きでも構わないので、工事項目にチェックを入れて、実施した工事に関しては、実際に実施金額を記入する等して新しい理事会に引き継いでおくと、その後の管理がやりやすいと思います。

さいごに

いかがでしたでしょうか。平成20年度のマンション総合調査では、自分のマンションには長期修繕計画があると答えた管理組合は約9割です。
しかし、私の経験では、長期修繕計画書を有効に活用している管理組合はなかなか無いようです。
これを機会に、ご自身のマンションの長期修繕計画書を確認していただき、管理組合内の合意形成や適正な修繕積立金の設定等に活用していただければと思います。ご自分のマンションがこの先どのようになっていくのか、又どのようにしたいのかなどを考えるのも結構夢のある話で想像力が膨らんでいくと思います。

投稿者プロフィール

重松 秀士
重松 秀士重松マンション管理士事務所 所長
プロナーズ理事(開発担当・監査人兼務)
マンション管理士、管理業務主任者、宅地建物取引主任者、ファイナンシャルプランナー、再開発プランナー、二級建築士、二級建築施工管理技士、建築設備検査資格者、甲種防火管理者、甲種危険物取扱者。
大手タイヤメーカー勤務を経て、平成15年2月マンション管理士として独立。財団法人マンション管理センターで嘱託社員として「マンションみらいネット」の立ち上げや「標準管理規約」第22条に対応する「開口部細則」の制定に従事。現在は約40件の管理組合と顧問契約を結びながら継続的な管理組合運営のサポートを行いつつ、大規模修繕工事や給排水管更新工事、管理コストの削減、管理費等の滞納、管理規約の改正等の個別コンサルティングを実施している。