昨年から今年にかけて、重松マンション管理士事務所では大規模修繕工事のコンサルティング業務が大変多く、5月時点では設備工事も含めると10件を超えています。
ところで、大規模修繕工事に付きものの「精算工事(工事費の精算)」についてご存知でしょうか。

大規模修繕工事の工事項目の中で、非常に重要な工事として、躯体の補修工事があります。

文字通り、コンクリート躯体のひび割れ、鉄筋爆裂、欠損等の修理を行うほか、外壁がタイル仕上げの場合は、ひび割れしているタイルを張替えたり、タイルが浮いている部分については充填剤を注入して脱落するのを防いだりする工事です。

一般的に、この工事は増減精算を伴う工事になります。
設計の段階では、足場がありませんのですべての外壁等を調査することはできません。
そこで、足場がない状態でも検査できる範囲で予想数量を想定し、施工数量と工事金額を算出したうえで工事業者と契約します。
 
そして、工事が始まると、外壁の周囲に総足場が組まれ、一番最初に躯体の劣化調査が行われます。
足場がないと実施できない外壁を中心として、バルコニーの手すり壁や上裏(天井面)など、すべての面の劣化状況をパルハンマー等で調査します。
補修が必要なすべての個所は、躯体にマーキングを行い、劣化状況別に記録したのち、最終的には図面化して記録を残します。
この数量が実数といわれるもので、実際に補修する数量となりますが、実数と契約時に設計図書に基づき契約した設計数量は当然に差が出ますので、普通はその差額は増減精算項目として、工事終了後に精算することになります。

参考までに過去にお手伝いした大規模修繕工事で下地補修工事を精算した時の実績表をご紹介いたします。

▼工事費の精算で当初の契約金額よりも費用が下がった事例(精算実績表のPDF
下地補修工事費の精算実績表(精算時に費用が安くなった事例)

この表の場合は、精算したら当初の契約金額よりも下がった事例で、過去の私の経験では、設計時の数量と実数にはさほど大きな差はなく、数量が増加した場合も、予め予算化しておいた予備費の範囲で対応できていました。

というのも、劣化数量の算出は、前述のとおり設計事務所が予め歩行で確認できる範囲を調査したうえで、過去の経験値に基づくその事務所のデーターを基に算出します。更には、安全を見て少し多めに設定する傾向がありますので、よほどのことが無い限り大幅に増加することはないと思っていましたし、過去にそのようなこともありませんでした。

ところが、最近経験した物件の1件において、予備費ではとても賄えない金額になってしまう事例が発生しました。

予備費全額を充当しても不足するのは私としても初めての経験で、今後の対応策を決定しないと、工事も先に進めることが出来なくなりますので、早急な対応が必要となりました。

私は、そのようなときは必ず足場に上って、まず数量の確認をすることにしています。
工事会社が「うそ」の報告をしているとは思いませんが、補修が必要な個所(傷んだ部分)の数え方等に関しては、個人差が出る場合もありますので、念のために設計事務所立会いの下に確認しました。
躯体の傷んだ状況は立面図(野帳)に記載してありますから、図面と現場を照合しながら、工事会社が報告している劣化数量が正しいかどうかをその場で確認します。

今回は、数量に関してはほぼ正しことが確認できましたので、その後は対応策を検討することになりました。
予備費で賄える場合は、予備費を充当することになりますので、残った予備費で今後工事が完成するまでの間特に問題がないか等の見込みを立てる作業を行います。
しかし、予備費を全額充当しても補修金額が不足する場合はどうでしょうか。大規模修繕工事には様々な工事項目がありますが、冒頭に書かせていただいた通り、躯体の補修工事は今後のマンションを健全に維持していくためには大変重要な工事項目ですので、お金が足りないからといって簡単にやめるべき工事ではありません。
設計事務所とも相談し、補修方法を一部変更したリ、他の工事を一部取りやめてその費用を補修工事の予算に回したりしました。
また、たまたま定期総会が近かったこともあり、臨時総会のときに承認していただいた予算を修正する案を再度総会に諮り何とか対応することができました。

最近では、設計段階でスカイチェアーやブランコ足場等を使用して、より精度の高い数量調査を行う設計事務所もあるようですが、今回の件をふまえて、私も今後は、設計段階でもう少し精度の高い補修数量を提案できるよう、設計監理を担当する設計事務所と十分協議をしながら進めていきたいと思いました。
なお最近の現場での関連写真をご紹介します。

参考写真

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これが問題の外壁です。青いテープを貼っている個所はタイルが浮いている個所です。
黄色いテープの部分は、タイルが割れている部分です。
全面的に、タイルが浮いている状態です。
この状態でよくタイルが落ちてこなかったなと不思議に思いました。
これは、浮いているタイルを実際にはがした様子です。
びっくりしたのですが、下地調整のためにコンクリート面に施工したモルタルの厚さが6㎝ありました。
普通は2㎝前後ですので、よほど新築時のコンクリート面が均一にできていなかったのではないかと思います。
下地調整モルタルがこんなに厚いと、やはり剥離が起こりやすいと思いました。
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こちらの現場は、躯体の傷みが少なかった現場で、ベランダの手摺支柱の根元の様子です。
下地調査の途中に、修繕委員会のメンバーと実際に足場に乗って、劣化数量の確認を実施したときの写真です。
検査終了後に、屋上に上っての記念撮影です。

投稿者プロフィール

重松 秀士
重松 秀士重松マンション管理士事務所 所長
プロナーズ理事(開発担当・監査人兼務)
マンション管理士、管理業務主任者、宅地建物取引主任者、ファイナンシャルプランナー、再開発プランナー、二級建築士、二級建築施工管理技士、建築設備検査資格者、甲種防火管理者、甲種危険物取扱者。
大手タイヤメーカー勤務を経て、平成15年2月マンション管理士として独立。財団法人マンション管理センターで嘱託社員として「マンションみらいネット」の立ち上げや「標準管理規約」第22条に対応する「開口部細則」の制定に従事。現在は約40件の管理組合と顧問契約を結びながら継続的な管理組合運営のサポートを行いつつ、大規模修繕工事や給排水管更新工事、管理コストの削減、管理費等の滞納、管理規約の改正等の個別コンサルティングを実施している。