こんにちは。重松マンション管理士事務所会長の重松です。
かなり間が空いてしまいましたが、前回の記事では、大手工事会社等に対する公正取引委員会の立入検査が行われたことをふまえ、いまだに続く大規模修繕工事における談合等の不正行為の実態についてご紹介しました。
そして今回は、「なりすまし」事件についてご紹介します。
既に報道等でご存じの方もいると思いますが、工事会社の社員が区分所有者になりすまして修繕委員として管理組合の内部に入り込み、自社に有利な発注へと誘導する――。これは決してドラマの中の話ではなく、実際に起きた事実です。
「なりすまし」を行った工事会社Aの手口
首都圏のあるマンションで、工事会社Aの社員が住民になりすまし、修繕委員に就任していました。
候補となる会社の比較表作成なども行いながら、巧みにこの工事会社Aと関係のある設計コンサルタント(設計事務所)Bへの発注を主導していたようです。
しかし、発注前に「なりすまし」が発覚し、発注の内定は取り消しに、この社員は「住居侵入容疑」で逮捕され(後に処分保留で釈放)、管理組合は「偽計業務妨害」と「詐欺未遂」で警察に告訴(後に受理されました)するという結末を迎えました。
実はこの工事会社Aは業界では悪名高く、よく知られた存在でした。
もともと大阪に本社がある会社ですが、近年は首都圏にも進出し、以前、私がサポートしている首都圏の管理組合でも、同社が公募に応募してきたことがあります。
そして、今回報道された事案は「なりすまし」という手段でしたが、実は彼らの常套手段は違います。
そもそも「なりすまし」自体、一般の常識人からすれば驚くべき行為ですが、彼らの常套手段もまた、「そんなことがあるのか」「そこまでやるのか」というようなものです。
それは・・・
社員名義でマンションの一室(場合によっては複数)を購入し、区分所有者として理事や修繕委員に就任。その後、自社に有利な形に主導していくというものです。
詳細な手口は書けませんが、通常より2〜3割高額になった工事費は、受注した仲間の設計コンサルタント(設計事務所)や一次下請けらと分け合います。
- 工事会社Aが対象マンションの修繕時期を把握し、仲間の設計コンサルタント(設計事務所)Bと共謀。
- 一室を社員名義で購入し、修繕委員として潜入
- 修繕委員会で、仲間の設計コンサルタント(設計事務所)Bに発注するよう仕向ける
- 設計コンサルタント(設計事務所)Bは5〜10%のキックバックを受け取り、一次下請けも含めて利益を分配
この工事会社Aはタワーマンションなどを含めて複数の物件を購入していますが、この手口の場合、当然多額の資金が必要になりますし、売買にもタイミングや時間を要します。
今回は資金が不足していたか、より少ない資金で、かつ、売りに出ていないマンションでも対応可能な「なりすまし」なら、もっと手っ取り早く業務拡大できると思ってやり始めたのではないかとみています。
「なりすまし」を許す隙だらけのマンション
大半の管理組合にとって、理事や修繕委員のなり手が少ないのが実情です。
加えて、大規模修繕工事となると手間も時間もかかりますし、専門知識がないと難しい場面も多くなります。動かす金額も大きく責任重大なので、「誰でもいいからやってくれれば助かる」という雰囲気になりがちです。
そして、規模の大きなマンションほど、同じマンションに住みながらも面識がないケースが増えてきます。その隙を突かれるのです。
実際にあったケースでは、名義上の所有者と出席者が異なっていたにもかかわらず、誰もそれを疑いませんでした。管理会社も書類上の確認しかしないため、顔と名前が一致しているかどうかはノーチェックのままでした。
こうした状況は、今回の「なりすまし」だけでなく、特定住民(理事や専門委員)と工事会社等との癒着によるトラブルにも繋がりやすくなります。
大規模修繕工事にかかわる根深い不正・不適切行為の数々
大規模修繕工事にかかわる不正行為は「なりすまし」だけではありません。
設計事務所と工事会社が結託し、表面上の公正な入札の裏で、特定業者に仕事が回るよう仕組まれる「談合」も根深く存在します。
また、マンションの管理会社が、こうした不正・不適切行為に関与するケースも存在します。
担当者レベルの話になると、設計コンサルタントや工事会社から袖の下を受け取り、見て見ぬふりをするという話もたまに聞きます。
様々な形で不正・不適切な行為が起こりうるのが大規模修繕工事なのです。
管理組合ができる「なりすまし」等への対策は?
巧妙化する「なりすまし」をはじめとした様々な不正・不適切行為に対し、管理組合が被害にあわないためにはどのようにすればいいでしょうか?
私からの提案は次の通りです。
修繕委員や理事候補者・代理要件の見直し
本人確認書類(顔写真付き)の提示を義務化
※マイナンバーカード、運転免許証等で本人であることを確認
※必要に応じて会議当日の本人確認も行う- 修繕委員については、区分所有権取得年数を条件に加える 例)5年以上
※不動産登記事項証明書(謄本)で確認可能
上記と併せ、必要に応じてプロセス・運用も見直します。
特に、上記をすぐに実行できない場合、先の例で言えば、書類上の確認しかしていないようなところを対面の面談形式に変えるとか、会議の正確な記録を残せるようにするとか、すぐにできることもあります。
上記以外では、例えばマンション標準管理規約に沿った管理規約が整備されていれば「利益相反取引の防止」について記載があると思いますが、立候補者については、その家族も含めた勤務先等の利益相反関係について申告してもらうこと、併せて、その検証や結果(違反)に関する整備を行うことも考えられます。
マンションにおいては、例え管理規約に明記されていても、実際に厳密な運用がなされているところはほとんどないと思われますが、企業における利益相反取引に関する規程や通報制度等、また、臨床研究における利益相反管理計画や利益相反自己申告書等、他分野において参考にできる部分もあると思います。
しかし、修繕委員や理事のなり手不足に悩む管理組合も多いなか、プライバシーにかかわる部分でもありますし、その手間や管理も含め、修繕委員や理事全員に対してはもちろん、立候補者だけにするにしても、厳格に行うことはなかなか難しいのではないでしょうか。
なお、今回の工事会社Aの手口で言えば、単純に勤務先を聞いても(申告があっても)その社名は設計コンサルタントや工事会社の選定時に出てこないようになっているので注意が必要です。
広報誌等や募集時における周知・啓蒙
広報誌やチラシ等を作って配布・掲示することで、実際にこのような事件が起きていることを、より多くの人に知ってもらい、注意喚起すると共に候補者要件等の変更への理解を促します。
「なりすまし」や情報漏洩を未然に防いだり、実際に業者から接触があった住民がいれば、その情報提供へ繋げることもできますし、同時に、直接・間接的に、情報収集を行なっていたり、「なりすまし」を狙っている悪質な会社に対する牽制にも繋がります。
また、修繕委員や理事の募集段階で併せて周知・啓蒙することで、水際での対策にもなります。
顔の見えるコミュニティづくり
大規模なマンションや賃貸が多いマンションほど難しいことではありますが、日頃から居住者間での面識・コミュニケーションがあれば、このようなことは防げます。
これは、何も趣向を凝らしたイベントを頻繁に実施して、という話ではなく、顔を突き合わせる機会を作る、という意味も含めたものです。
顔の見えるコミュニティは、今回のような「なりすまし」はもちろん、単純な利益相反関係の把握や住民間のトラブルや合意形成、災害時にも有効です。
外部専門家の活用
本人確認等だけでも抵抗があったり、すぐに整備できない管理組合もあると思います。
そのような場合、マンション管理士をはじめとした中立な第三者を活用することで、代わりに確認してもらったり、整備のサポートをしてもらったりして、精神的な部分も含めて負担を軽減できます。
また、仮に「なりすまし」等がいたとして、専門家による第三者のチェック機能があれば、その後の業者選定プロセスにおいて、不適切行為を防ぐことが可能です。
一連の報道を受けた国交省の対応について
公正取引委員会による立入検査、そして、「なりすまし」事件を受け、国交省は以下のような対応をしてきました。必要に応じてご参照ください。
- 談合違約金特約条項についての事務連絡通知を発出(令和7年6月26日)
公正取引委員会による立入検査を受け、各マンション管理・修繕関係団体や自治体に対し、談合の防止を図る観点から、請負契約締結時に違約金特約条項を設定することが可能な旨の事務連絡通知が発出されました。
リンク:マンション管理センター:マンション修繕工事に係る請負契約における談合違約金特約条項について(PDF) - 改正マンション標準管理規約への反映(令和7年10月17日)
区分所有法の改正等に合わせた改正が主目的でしたが、「なりすまし」事件を受け、「管理組合役員、専門委員就任時の本人確認」について、コメントが追加されました。
リンク:国土交通省:マンション標準管理規約
違約金特約条項については、既に取り入れてやっている管理組合もあると思いますが、リンク先の通知にも記載があるとおり、残念ながら談合を防ぐ決定打にはなりません。
また、近しい対策として、面談時に質問をしたり、不適切な行為はやらない旨の誓約書を書いてもらう等もありますが、誰に聞いても「自分はホワイトだ」と言いますし、誓約書にも必ずサインします。
違約金特約条項も含め、決してそれらが無意味なわけではありませんが、そう単純なものではないことにはご注意ください。
さいごに
「なりすまし」という新たな手口も含め、2回にわたり大規模修繕工事にかかわる根深い問題についてご紹介しましたが、いかがだったでしょうか?
「ここまでするのか?」と思われた方もいると思いますが、それほどまでにマンションの修繕積立金が狙われていること、こうした行為が成り立つと思われているほどに、マンション管理には隙ができやすいことは、今一度認識する必要があります。
過去や前回の記事等でご紹介した大規模修繕工事にかかわる不正・不適切行為は根深く存在しますが、マンションの居住者間のコミュニケーションや管理組合の意識が希薄なほど、悪質業者等に狙われやすくなります。
年々巧妙化する手口に備え、今一度マンションに住むということはどういうことなのか、そして「誰のための修繕か」の意識合わせが必要であると同時に、こうした行為から守る法整備が望まれるところです。
投稿者プロフィール

- 重松マンション管理士事務所 所長
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プロナーズ理事(開発担当・監査人兼務)
マンション管理士、管理業務主任者、宅地建物取引主任者、ファイナンシャルプランナー、再開発プランナー、二級建築士、二級建築施工管理技士、建築設備検査資格者、甲種防火管理者、甲種危険物取扱者。
大手タイヤメーカー勤務を経て、平成15年2月マンション管理士として独立。財団法人マンション管理センターで嘱託社員として「マンションみらいネット」の立ち上げや「標準管理規約」第22条に対応する「開口部細則」の制定に従事。現在は約40件の管理組合と顧問契約を結びながら継続的な管理組合運営のサポートを行いつつ、大規模修繕工事や給排水管更新工事、管理コストの削減、管理費等の滞納、管理規約の改正等の個別コンサルティングを実施している。
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