大規模修繕工事時の事前調査において、ベランダの全住戸の隣との「仕切り隔て板」並びに、廊下側下全部の手すり下「ケイカル板」にアスベストが含まれていることが施工監理会社の調査で、わかりました。

 築年数の古いマンション(当該マンションは築40年弱で、200戸弱の中規模クラス)では、同じようにアスベストが含有されている可能性が大きいです。

 皆さん方は、こういう場合、どうされるでしょうか?

 当該管理組合理事会では、当初、経年劣化による当該箇所のひび割れが各所に見受けられており、そのひび割れ箇所からわずかではありますが、アスベストの飛散が想定されるため、施工監理会社は全面撤去・新品交換の提案をしておりましたが、管理組合理事会はお金との関係上、当該箇所を部分補修し、アスベストを封じ込めることで合意しておりました。

 理事会、修繕委員会に補助参加人として、途中から関与した小職は、費用がかかっても(たとえ借金してでも)、アスベスト含有物の全面撤去・交換を提案し、理事会でなんとか承認を得ることができました。

 現在、アスベストの建築物への使用は法律で禁じられておるのは、周知の事実です。既存マンション関係でのアスベストはレベル3(発じん性が比較的低い)なので、上記「封じ込め」作戦で事足りるという意見もあります(実際、知己の複数の一級建築士の先生方の意見もまちまちでした。)が、小職は、敢えて、全部撤去を主張し、現在撤去・交換作業がほぼ完了しつつあり、つくづく全部撤去を敢行して、良かったなあと実感しております。

 というのも、去る7月、小職が所属する(有限責任事業組合)マンション管理士プロフェッショナルパートナーズ瀬下理事(区分所有管理士・マンション管理士)の主催する「瀬下塾」に参加させていただき、東北大震災を自らも被災し、現場で復興に精勤された、某マンション管理会社フロント課長の悲壮感漂う、切実なる被災体験談をお聞かせいただき、その判断が正しかったことを確信するに至ったからです。

 同研修内で、東北のあるマンションの被災写真を見せていただき、目から鱗がおちました。なんと、ベランダ側の隣との各住戸の隔て板の全てが震災により破壊され、大きな穴が空き、隣はもとより、はるか十数件向こうまで、みとおせるではありませんか。そして、最悪なのが、震災中時につき、修復業者も見つかるはずもなく、それを即座に修復することは不可能だということです。

 もし、アスベストが含有している築年数の古いマンション(東北にもあるはず)なら、破壊面から、アスベストが空気中に数ヶ月間、飛散し放題となっているはずです。
 
 今回、関与したマンションは関西なので、南海トラフ等の大震災が発生し、上記と同じことが起きることが想定されます。当時関与した管理組合理事会や修繕委員会の責任が問われることは想像に難くありません。

 大規模修繕工事の際に関与した施工監理会社はアスベストを発見した時点で、管理組合理事会に全面撤去を提案していました。にもかかわらず、理事会が費用面の都合上、部分補修の封じ込めを敢行した結果、それが大震災によって破壊され、数ヶ月の間、補修もないまま、放置され、必然的に破壊部分からアスベストが飛散することになるわけですから。

 アスベストの被害は個人差にもよりますが、発病しない場合もあり、発症する場合でも、発病まで10年以上経過しないとわからないケースがほとんどだといわれています。

 ただ、それよりも小職は風評被害の方を心配するわけです。当該マンションにアスベストが含有されていることは、居住者全員に知れ渡っており、監理者の助言どおりの「全部撤去」を実施せず、費用との関係上、封じ込め対応で終えたあと、震災により、当該箇所が大きく破壊され、アスベストが空気中に飛散する可能性があるという事実そのものを問題としているのです。
 
 「なぜ当時の理事会や修繕委員会は施工監理者の助言を無視したのか?」「命に関わる問題になぜ金を優先したのか?」「今後、アスベストにより発症した時の責任をどうとるのか?」等、各区分所有者から損害賠償請求されることも想定できるわけです。

 現在、当該マンションでは、アスベスト除去工事がほぼ完了し、何よりホッとしています。

 地震が起きたら、困りますが、起きた時、被害を最小限に留めるリスクプラン(正しくは、コンティンジェンシィプラン)を練っておくことが重要です。
 
 繰り返しますが、めったに起こらないとは言え、大地震が起きると、本当に困ります。しかし、大地震は必ず起こるものだと想定して、各自がその対応を普段から練っておくと、起こった時でも、路頭にまよわず、あわてないですみます。管理組合にとって、もっとも大事なことだと思っております。
 
 

投稿者プロフィール

福井 英樹
福井 英樹福井英樹マンション管理総合事務所 代表
マンション管理士(国家資格)・宅地建物取引士(国家資格)・区分所有管理士(マンション管理業協会認定資格で、管理業務主任者の上位資格)・マンション維持修繕技術者(マンション管理業協会認定資格)・管理業務主任者(国家資格)資格者で、奈良県初、大阪府堺市初かつ唯一のプロナーズ認定者