こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。だいぶ暖かくなってきましたね。学校や会社では新しい年度に入るところが多いと思いますが、管理組合においても、そろそろ総会の準備にかかっている理事会も多いのではないでしょうか。今回は、過去の当事務所のニュースレターを参考に、「効率の良い理事会運営の秘訣」と題して、理事会の役割や理事会の問題点をお伝えしたうえで、効率の良い理事会運営を行うためのヒントをお話しさせていただければと思います。
これから、理事になる予定の人にはぜひ読んでいただければと思います。

1.理事会とは

①業務執行機関

「理事会は管理組合の業務執行機関」といわれています。株式会社における取締役会のようなものを連想する人が多いと思います。取締役会に関する規程は、会社法等に規定されていますが、実はマンション法ともいわれる区分所有法には、理事や理事会の定めはありません。(管理組合法人の場合は「理事」と「監事」の規程があります。)
基本的には、管理組合の意思決定(管理・運営)は、区分所有者全員の総会で決議し、多数決原理で運営していきます。
ただし、戸数が多いマンションにおいては、そのような運営方法は非効率的なので、法律では「管理者」をおいて、管理者が管理組合の業務を遂行することができる規程を設けています。※管理者に関しては後述します。
では法律上も明確な規程がない管理組合の理事や理事会が、なぜマンション管理に関する重要な位置付けとして議論されてきたのでしょうか?
国土交通省が公表している「マンション標準管理規約(以下「標準管理規約」といいます。)」があります。これは、マンション内での住民間のトラブルを防止し、適正な建物管理と快適な生活を目的として、有識者が集まって昭和57年(1982年)に作成されたものです。
途中で何度かの改訂作業を経て、2016年の3月に最新版が公表されています。
この標準管理規約の中に、理事会が行うべきことや理事長を含む各理事の業務内容等が規定されています。
標準管理規約は法律ではありませんが、マンション管理組合においてはマンション管理のバイブル的な存在として位置づけられていますので、多くの管理組合はこの標準管理規約を採用して管理組合内に理事会を設け、理事長が中心となってマンション管理を行っています。

②責任者はだれ?

会社の責任者は社長です。ですから、一般的な考えからいうと管理組合の責任者は理事長となります。
ところが会社の社長には強大な権限と責任がありますが、管理組合の理事長はそうではなく、理事会は主に理事の合議制で運営されます。
一般的には、会社の社長や取締役は経営能力のあるプロや優秀な社員の中から選ばれるのに対し、管理組合の理事は、多くの場合は区分所有者の中から毎年輪番制で選ばれ、さらに理事の互選(場合によってはじゃんけんやあみだくじ)で理事長が選出されます。
ですから、選ばれた理事長が必ずしも能力があるとは限りませんし、そのような理事長に強大な権限や責任を与えることはできません。また、そんな重い責任や権限を与えられるなら、怖くなって誰も理事や理事長をやりたがらなくなります。実は標準管理規約では、「理事長は理事会の決議を経て●●を実行する。」という規程がほとんどです。このような合議制の運営の方が日本の風土になじむと考えたからでしょうか。
ちなみに、標準管理規約において理事長が理事会の決議を経ないで行うことができる行為は、

  1. 通常総会の招集
  2. 保険金の請求と受領
  3. 災害時における保存行為

くらいしかなく、権限というよりは「義務」に近いものですね。

③理事の責任は?

会社は出資者からのお金を預かって、利益の追求を目的として活動し、取締役は重い責任と多額の報酬がありますが、管理組合は利益を追求するのではなく、マンションという建物の維持・管理が主目的です。ほとんどの場合は無報酬か貰ってもお小遣いにもなりません。ですから、そもそもの目的が違います。
とはいうものの、管理組合が管理する資産は、マンションの規模によっては何億円、何十億円になります。高額な区分所有者の資産を適正に管理していくには、それなりの責任が伴うと誰もが考えます。
前述のとおり、区分所有法には、「管理者」という規程があります。管理者には、①保存行為、②管理規約で決められた行為、③総会で決まった事項を実行する権限が与えられます。
また、同法において「管理者はその職務において区分所有者を代理する。」とありますので、管理者がその職務内で実施した行為は、管理者個人の責任ではなく区分所有者全員の責任となります。
これを、理事や理事長に置き換えて考えるのが一般的な考えとなっています。
つまり、理事会が管理規約や総会の決議に基づき実施した行為は、理事長(理事)の責任ではなく区分所有者全員の責任ということです。ですから、違法行為や善管注意義務違反等がない限り、理事会が行った行為(業務)の結果に、理事が責任を負うことはありません。

2.多くの理事会が抱える問題点

①自分たちが決めたことを自分たちではやれない。

会社の場合は、経営方針、営業戦略、予算などを取締役会で決め、所定の手続きのうえ、自分たちでスピーディに実行します。そしてその結果について責任を負います。
ところが、管理組合の場合、事業計画や予算案は総会の議決事項となっており、年に1回開催される通常総会において決定されます。総会に諮るのはその年の理事会、執行するのは翌年度の理事会となります。1年で理事全員が入れ替わってしまう管理組合が約6割(平成25年度マンション総合調査)ですから、多くの管理組合では「前期の理事会が決めたことを今期の理事が引き継いで実行する。」ことになります。
また、理事会が行うべき業務は、保存行為のほかは、管理規約と総会決議に基づくことになりますから、業務範囲はかなり限定されます。
「総会では承認されていないし、管理規約にも規程がないけれど、マンションにとって良いことから即実施しよう。結果の責任は私たちがとればよい!」といって実行することはできません。そんなことをしたら、結果に対する責任ではなく、そもそもそのようなことをやったことに対する責任を問われることになります。
どうしても自分たちでやりたいことができた場合は、臨時総会を開催して承認を貰ってから自分たちの理事会で実行するか、やりたいことを次年度の総会に諮ったうえで、次年度も理事を継続して実行するかになります。ですから、効率という点ではとても非効率的な運営となります。

②無責任体質

前項で述べた通り、理事会が違法行為や善管注意義務に反しない限り、つまり普通に業務を行っている限り、責任を問われることはありません。
その反面、

  1. 予算は総会で承認されているからその通りに使えばよい。
  2. 自分たちは余計なことは考えず、前の理事会が決めたことだけをやっていればよい。
  3. 面倒なことは管理会社に任せておけば何でもやってくれる。

このように考えて「早く1年たって欲しい」となると、いわゆる無責任体質となります。
自分が本業としてやっている仕事や自分の家計を考えるときとはえらい違いです。
そうしているうちに、正しい判断力を行使することなく、問題を先送りにしたり、無駄なコストを垂れ流したりする結果になることもあります。

③専門性に乏しい理事で高額の資産管理をやらなければならない

マンション管理には相当高度な専門知識(法律、技術、財務、保険、資産運用etc...)が必要です。区分所有法に管理者の規程がある趣旨は、管理者という外部の専門家に管理をさせることを前提としているといわれています。欧米でのマンション管理は多くがこのシステムを採用し、所有と管理を切り離して合理的に考えています。
しかし、日本の理事会では、居住者から選ばれた理事の合議制で運営されますので、多くの場合、理事会にマンション管理の専門家はいません。その場合は、理事だけで物事を考えて正しい結論を導き出すことが難しいので、結局は決断を先送りにしたり、ルーティンワーク的なことだけをやったりする理事会になってしまいます。

3.じょうずな理事会運営のヒント

それでも、マンションを購入したからにはいつかは理事の順番が回ってきます。
以上のように、マンション管理組合の理事会は問題が多いのですが、理事になったからにはなるべく効率の良い理事会運営を行い、管理組合の利益、延いては区分所有者全員のためになるような運営を心掛けたいと思うはずです。そこで理事会を効率的に行うためのヒントを私なりに考えてみました。

①年間の課題を決めて、毎月進捗状況を確認する。

何度も申し上げますが、理事会でやるべきことは管理規約で決められた業務と総会で決議された事項です。ですから、今年の目標等は比較的簡単に決めることができます。
年度の初めにその項目を整理して年間スケジュールを決め、毎月進捗状況を確認しながら議論をすると、効率の良い議論ができます。
案件ごとに結論を出す期日を決めておき、それを目標に議論をしていけば効率が良くなります。

②会議にダラダラと時間をかけない。

私が拝見してきた多くの管理組合のうち、効率の良い運営をやっている管理組合は、総じて理事会等の開催時間が短いです。普通は1時間半から2時間。どんなに掛かっても3時間以上やっている管理組合はありません。一方、効率の悪い管理組合の理事会は最低でも3時間、酷い時には夕方から始めて午前様までやっているときもあります。こんなことを続けていれば、理事も理事会に出たくなくなり、だんだん欠席者も多くなって理事会自体が機能しなくなったり、場合によっては成立しなくなったりすることもあります。
もし、自分が勤務している会社において、こんな長時間の会議をやっていると、今はそれだけで自分の評価が下がってしまいます。
※昔は、いつまでも残業をしたり、長い時間会議をしたりしていると「よく働くやつだ。」といわれた時代もありましたが...
ではどうすれば理事会の開催時間を短縮することができるでしょうか。

1)理事会の議題をあらかじめ決めておく

理事会での審議(検討事項・報告事項)事項をあらかじめ決めておき、事前に理事に配布しておくととても効率が良くなります。議題を決めるのは、一般的には理事長が良いと思いますが、理事会の事情によっては、別の理事が担当しても構わないと思います。今は、電子メール等も活用できますので、前回までの理事会の結果から判断したり、管理会社と協議しながら予めまとめておいたりするとよいでしょう。また、理事会で検討してもらいたい事項がある場合は、事前に理事長に連絡して、審議事項、理由、必要な資料等を提出しておくことも可能です。

2)審議事項を優先して

当日の理事会で必ず決定(議決)しなければならない事項を最優先で審議していきます。
そして、報告事項はあとに回し、終了時間が来てしまったら「時間が無くなったから、報告事項は読んでおいてください。」とし、何が何でも最初に決めた時間に理事会を終了する癖をつけていけばよいと思います。最初のうちは、ほんとうにこれ良いのかと思うかもしれませんが、何回かやっているうちにきちんと時間内に収まるようになります。経緯の説明や意見の表明をする場合も常に時間を考えて発言していれば、他の人の持ち時間のことも考えるようになりますので段々時間が短縮できるようになります。「俺は先月の理事会を欠席したので、その時の経緯をもう一度説明してくれ!」などはもってのほかです。
また、当日結論を出さないで良い検討課題等を議論する場合も、あらかじめ決まった時間内で議論をすることとし、時間が来たら直ちに止めるようにするとよいと思います。

③必要に応じて外部専門家を活用する

理事会は、あらかじめ決められた課題を審議、決議して、たんたんと処理していくことが基本ですが、居住者からの問合せ、要望、苦情などに対応しなければならないときもあります。そのような場合、住民からの要望等を理事会で一つずつ取り上げて対応策を審議していたらそれこそ時間がいくらあっても足りません。
そんな時は、管理会社や専門家などを上手に活用するとよいと思います。
例えば、騒音や近隣関係の問題、共用設備に関する問合せや苦情、マンションを良くしたいための提案など様々ですが、管理会社や顧問マンション管理士等はそれらに関する経験が豊富で、対応策や解決事例なども多く持っていますので、事前に問題を相談しておき、その解決方法や事例等を理事会(できれば理事会前)において紹介してもらう等すれば、無意味な議論を行う必要がなくなります。
管理組合で発生する様々な問題を解決するには、管理規約や関連する法律(特に区分所有法)に基づいて処理していく場合がほとんどです。これを専門的知識が少ない理事だけで何時間議論しても、結論が出ないことは容易に理解できると思います。そんな時に専門家に相談するとわずか数分で問題が解決することもよくあります。
余談ですが「パーキンソンの凡俗の法則」というものがあり、「多くの人は、自分が分からないような専門性の高いことについては議論に口出しをしないが、誰もが知っている(または知っていると思っている)ことについては、議論の本質とはかけ離れたどうでもよいことであっても時間を使って議論をしたがる。」という法則だそうです。理事会でこんなことをやられたら議長(理事長)はたまったものではありません。ご自分の理事会をご覧になって思い当たる節はありませんか?

4.さいごに

あくまでも私見ですが、理事会にかかる時間と適正な管理組合運営は反比例していると思います。

  1. 理事会が長時間になる。
  2. すると、、議論がつまらないだけでなく心身ともに疲れる。
  3. そして、欠席する理事が多くなる。
  4. そうなると、理事会が適正に機能しなくなり、効率も悪くなる。
  5. その結果、管理組合の資産価値がきちんと維持できない。

という「負の連鎖」に陥ってしまわないよう皆様方で注意していただければと思います。

投稿者プロフィール

重松 秀士
重松 秀士重松マンション管理士事務所 所長
プロナーズ理事(開発担当・監査人兼務)
マンション管理士、管理業務主任者、宅地建物取引主任者、ファイナンシャルプランナー、再開発プランナー、二級建築士、二級建築施工管理技士、建築設備検査資格者、甲種防火管理者、甲種危険物取扱者。
大手タイヤメーカー勤務を経て、平成15年2月マンション管理士として独立。財団法人マンション管理センターで嘱託社員として「マンションみらいネット」の立ち上げや「標準管理規約」第22条に対応する「開口部細則」の制定に従事。現在は約40件の管理組合と顧問契約を結びながら継続的な管理組合運営のサポートを行いつつ、大規模修繕工事や給排水管更新工事、管理コストの削減、管理費等の滞納、管理規約の改正等の個別コンサルティングを実施している。