滋賀県野洲市が、数年前から無人になっている市内マンション(築47年、9戸)の区分所有者に対して、空家対策特別措置法に基づく除却(解体)命令を行う方針を固めた。命令に先立ち、3月1日には区分所有者に意見等の提出などの機会を与える通知書を郵送した。市は、命令で区分所有者が自主的に解体を行わない場合は、行政代執行による解体も検討している。区分所有マンションに対する解体命令は極めて異例。
 登記簿によれば、マンションは鉄骨造の陸屋根3階建て。専有面積はそれぞれ38.22平方メートル。区分所有者は9人で、法人所有が1戸あった。同市住宅課によると、竣工年は1972年で管理組合はない。区分所有者数9人のうち1人は行方不明としている。
 空家対策特別措置法施行以前の2012年11月、3階の共用廊下の手すりがぶら下がるように外れ、近隣住民からの通報で市が調査し空き家であることが判明した。手すりは当時、所有者に撤去してもらったという。
 昨年6月にマンションの妻壁が崩落。その後、同市は同法9条2項に基づく建物の「立入調査等」を実施した。8~9月にかけ、市は対処を話し合ってもらおうと区分所有者に連絡し、お互いの連絡先を交換してもらう場を設けた。
立ち入り調査等の結果から市は昨年9月18日、マンションを同法2条2項の「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態」または「著しく衛生上有害となるおそれのある状態」「適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態」「その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態」にある「特定空家等」に認定した。
 その10日後の9月28日付で市は区分所有者に建物の除却などを求める同法14条1項の指導、12月12日に同条2項の勧告をそれぞれ行い、区分所有者に解体を求めた。
 勧告の期限である今年2月28日までに区分所有者側が措置を取らなかったため、市は、3月1日、同3項の解体命令を行うに当たり必要な、同4項に基づく意見書等の提出などを求める通知書を区分所有者に郵送した。提出期限は3月15日。
 区分所有者側からの意見書で正当な理由がない場合、同市は最短で4月ごろに解体命令を行う方針だ。約2カ月で解体されない場合は11月をめどに行政代執行に踏み切る予定。
 区分所有者が自主的に建物を解体するには全員の合意が必要になる。
 マンション建替え円滑化法を活用できれば5分の4の多数決で建物を解体し、敷地を売却する方法もある。
 ただマンションには管理組合がない。こうした手法で「終活」を行うには専門家の手助けが不可欠になるが、建物の状態を考えると「手遅れ」の感が否めない。
 今後こうした事態が生じるのを防ぐ上でも、手が付けられなく状況に陥る前に区分所有者による自主的なが取り組みができるよう、自治体が専門家の派遣制度などを設け、専門家による支援を行うなどして「管理不全」や「放置」を予防していく必要がある。

以上、マンション管理新聞第1098号(2019年3月5日)より。

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投稿者プロフィール

福井 英樹
福井 英樹福井英樹マンション管理総合事務所 代表
マンション管理士(国家資格)・宅地建物取引士(国家資格)・区分所有管理士(マンション管理業協会認定資格で、管理業務主任者の上位資格)・マンション維持修繕技術者(マンション管理業協会認定資格)・管理業務主任者(国家資格)資格者で、奈良県初、大阪府堺市初かつ唯一のプロナーズ認定者